そばやパンの原材料表示で、「増粘剤(アルギン酸エステル)」という文字を見かけることがあります。
「エステルは化学合成で体に悪い」「発がん性があるのでは」という話を耳にして、気になっている方もいるのではないでしょうか。
- 名前が化学物質っぽくて不安
- 毎日食べても大丈夫か知りたい
- 発がん性の話が気になる
- どの食品に入っているか知りたい
そこで、国際機関と欧州の評価書、日本の使用基準、国内の使用量を調べ、アルギン酸エステルをどれだけとっているのかを計算しました。
結果、日本人1人がとっている量は1日約4mgで、1日にとってよい量の約800分の1でした。避けても、減らせるのはこのわずかな量だけです。
「エステル」って聞くと、なんだか薬品みたいで身構えちゃいます。
中身は昆布などの海藻の成分です。ただ、ほかの海藻由来の添加物とちがう点が1つだけあります。
- 体に悪いと言われる4つの理由
- アルギン酸エステルの正体と体の中での行方
- 許容量と、実際にとっている量
- 使われている食品と表示の見方
使う資料は、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)と欧州食品安全機関(EFSA)の評価、国内唯一のメーカーの技術資料です。
まずは、なぜ「体に悪い」と言われるのかから見ていきましょう。
アルギン酸エステルが体に悪いと言われる理由


アルギン酸エステルは、そばやパン、乳酸菌飲料などに使われている添加物です。とろみをつけたり、食感を保ったりする役目があります。
「体に悪い」と言われる理由をたどると、4つに分かれました。どれも名前や仕組みが見えにくいことからくる不安で、食べて害が出たという報告ではありません。
天然なのか合成なのか、表示だけだと分からないですよね。
そこが一番の誤解のもとです。1つずつ切り分けていきましょう。
「エステル」という化学的な響き
「エステル」は、酸とアルコールがくっついた形を指す化学の言葉です。名前だけを見ると、工場で作った化学物質という印象を持たれがちでしょう。
実際の原料は昆布などの褐藻からとれるアルギン酸で、そこに別の成分を1つ結合させたものです。
「エステル」と付くだけで、化学物質っぽく聞こえます。
原料は昆布などの海藻です。名前の響きだけで判断しないことが大切ですよ。
指定添加物に分類される
日本では、アルギン酸エステルは「指定添加物」に分類されます。化学的な加工をしているため、天然の「既存添加物」とは別の扱いです。
ただし指定添加物は、国が安全性を確認したうえで使用を認めたものの一覧でもあります。分類だけで危険とは言えません。
「指定」と付くと、危ないものの一覧かと思っていました。
逆です。国が安全性を確認して、使ってよいと認めたものの一覧なんです。
使用量に上限がある
アルギン酸の仲間の添加物の中で、使える量に上限があるのはアルギン酸エステルだけです。
「上限がある=危ない」と受け取られがちですが、上限の理由は結合させた成分の側にあります。くわしくは後の章で紹介します。
上限があるのは、危ないからではないんですね。
結合させたPGの側に理由があります。くわしくは3章で見ていきましょう。
発がん性の噂
「添加物だから発がん性があるのでは」という声も少なくありません。
欧州の2018年の再評価では、発がん性も遺伝子への影響も懸念なしと結論されています。こちらも後の章でくわしく見ていきます。
添加物だから発がん性がある、と思い込んでいました。
欧州の再評価では、発がん性も遺伝子への影響も懸念なしという結論です。
アルギン酸エステルの正体と原料


では、アルギン酸エステルとはそもそも何なのでしょうか。
国内のメーカーの資料と欧州の評価書をたどると、海藻の成分に、プロピレングリコールという成分をくっつけたものという姿が見えてきました。体の中では、この2つが分かれて別々の道をたどります。


海藻とプロピレングリコールの組み合わせだったんですね。
ええ。体の中で何が起きるかも、2つに分けて考えると分かりやすいですよ。
原料は昆布などの海藻
アルギン酸は、昆布やワカメなどの褐藻に含まれる、ぬめりのもとになる成分です。
国内で唯一の製造メーカー、キミカの技術資料によると、海藻から取り出したアルギン酸を洗って水分を抜き、酸化プロピレンと反応させて作ります。
昆布のぬめりが原料なんですね。
はい。国内で作っているメーカーは1社だけです。
プロピレングリコールを結合
この反応で、アルギン酸にプロピレングリコール(PG)がくっつきます。正式な名前は「アルギン酸プロピレングリコールエステル」で、表示では「アルギン酸エステル」と略すのが一般的です。
ほかのサイトでは「グリセリンやスクロースなどを結合させて作られる」という説明も見かけます。しかし結合させるのはプロピレングリコールだけで、これは誤りです。


体の中でアルギン酸とPGに分かれる
EFSAの2018年の再評価によると、アルギン酸エステルは胃や腸で一部が分解され、アルギン酸とPGに分かれるとのことです。
アルギン酸の部分は吸収されず、便として出ていきます。一方、PGの部分は吸収され、体の中で乳酸やピルビン酸に変わります。どちらも、ふだんの代謝で作られている物質です。
PGの部分は、体の中で乳酸になるんですね。
どちらも、ふだんの代謝で作られている物質です。
「そのまま排出」は半分だけ正しい
ほかのサイトでは「体内にほとんど吸収されず、そのまま排出される」という説明をよく見かけます。
アルギン酸の部分については正しいものの、PGの部分は吸収されます。吸収される部分があるからこそ、許容量が数字で決められているのです。
全部そのまま出ていくわけではないんですね。
吸収されるPGの部分があるから、許容量が数字で決められているんです。
アルギン酸エステルの許容量と摂取量


正体が分かったところで、気になるのは量です。
1日にとってよい量と、日本人が実際にとっている量を並べました。平均でとっている量は、許容量の約800分の1という結果です。


800分の1って、ほとんどゼロみたいなものですね。
平均の数字ですが、そばやパンを毎日食べる人でも許容量に届くことはまず考えにくいですね。
上限があるのはPGのため
アルギン酸とアルギン酸ナトリウムは、JECFAが1日許容摂取量を「特定しない」と評価しています。数字で決める必要がないほど安全という意味です。
一方、アルギン酸エステルには数字が決まっています。理由はPGの部分で、PG自体の許容量(体重1kgあたり25mg)から逆算して決められました。


許容量は体重1kgあたり70mg
JECFAは1993年、アルギン酸エステルの1日許容摂取量を体重1kgあたり0〜70mgとしました。体重50kgの人なら1日3,500mgまでです。
他社の記事には「摂取許容量(ADI)も特に制限を設けない」とありますが、これはアルギン酸やアルギン酸ナトリウムの評価と取り違えたものです。
ほかのサイトの「制限なし」は、別の添加物の話だったんですね。
アルギン酸やアルギン酸ナトリウムの評価と取り違えたものです。
日本人の摂取量は1日約4mg
キミカの資料によると、アルギン酸エステルの国内の使用量は年間200トン前後です。
これを人口(約1億2,300万人)と365日で割ると、1人1日あたり約4mgになります。許容量3,500mgと比べると、約800分の1です。
| 項目 | 1日あたりの量 | 出典 |
|---|---|---|
| 日本人1人あたりの平均(推計) | 約4mg | キミカ(国内使用量200t前後) |
| 1日許容摂取量(体重50kg) | 3,500mg | JECFA 1993年 |
| 上限1%の食品で許容量に届く量 | 食品350g | 食品の使用基準から計算 |
| 項目 | 1日あたり |
|---|---|
| 日本人の平均(推計) | 約4mg |
| 許容量(体重50kg) | 3,500mg |
上限いっぱいでも350g
日本の使用基準では、アルギン酸エステルは食品の1.0%以下しか使えません。
上限いっぱいの食品だけを食べたとしても、許容量に届くのは毎日350gを食べ続けたときです。実際の使用量は、パンなら小麦粉に対して0.1〜0.2%程度と、上限よりはるかに少ない量です。


アルギン酸エステルの安全性の評価


ここからは、国内外の公的機関がアルギン酸エステルをどう評価しているかを見ていきます。
国際機関、欧州、日本のいずれも、決められた量の範囲なら安全上の懸念はないという結論でそろっていました。
欧州でも同じ結論なんですね。
しかも欧州は、日本より厳しめの数字で計算し直しても問題なしとしています。
EFSAは2018年に懸念なし
EFSAは2018年の再評価で、1日許容摂取量を体重1kgあたり55mgとしました。JECFAより低い数字ですが、PGの含有量を最大45%と厳しく見積もったためです。
そのうえで、どの年齢層でも推計された摂取量は許容量を超えず、認められた使用量で安全上の懸念はないと結論しています。
欧州は、日本より厳しめの数字で計算し直しているんですね。
それでも、どの年齢でも許容量を超えないという結論でした。
発がん性と遺伝毒性は懸念なし
EFSAは、遺伝子を傷つける性質(遺伝毒性)について「懸念を示すデータはない」としています。
発がん性についても、アルギン酸エステル、アルギン酸、PGのいずれも懸念なしという判断です。
分かれたアルギン酸やPGにも、懸念はないんですね。
3つとも、発がん性の懸念なしという判断です。
子どもの摂取量も許容量以内
EFSAの推計で摂取量が多かったのは、体重あたりの食べる量が多い幼児です。
それでも、よく食べる幼児(上位5%)で体重1kgあたり1日11.7〜39.6mgでした。欧州の食品は上限いっぱいに使ったと仮定した計算ですが、許容量の55mgを下回っています。


日本の使用基準は食品の1%
日本では、アルギン酸エステルの使用基準は「食品の1.0%以下」です。ほかのアルギン酸の仲間には使用基準がありません。
キミカの資料でも、この基準はアルギン酸ではなくPGを基準に設けられたものと説明されています。
アルギン酸の仲間で、使用基準があるのはこれだけなんですね。
PGを基準に決められているからです。
アルギン酸エステルが使われている食品


最後に、アルギン酸エステルが実際にどんな食品に入っているかを紹介します。
メーカーの資料と公式サイトの原材料表示を調べたところ、使われる食品はかなり限られていました。表示の書かれ方もあわせて紹介します。


ドレッシングやアイスにたくさん入っているのかと思っていました。
他社の一覧にはいろいろ並んでいますが、実際に表示を確かめると意外と少ないんです。
乳酸菌飲料とパン
キミカの資料によると、国内ではもともと乳酸菌飲料の安定剤として使われてきました。乳のたんぱく質が固まって沈むのを防ぐ役目です。
パンでは、小麦粉に対して0.1%程度を加えると、ふくらみがよくなり、つぶれにくくなります。冷蔵で売られるサンドイッチ用のパンにも使われています。
乳酸菌飲料が沈まないのは、このおかげなんですね。
乳のたんぱく質が固まって沈むのを防いでいます。
チルドのそばや麺
麺では、ゆでた後の食感を保つ目的で、とくにチルド麺に使われています。最近はそうめんや乾めんにも広がっているそうです。
| 商品名 | メーカー | 表示 |
|---|---|---|
| そば 3食入 | 東洋水産 | 増粘剤(アルギン酸エステル) |
| 麺上手 粗挽きそば 2食入 | 東洋水産 | 増粘剤(アルギン酸エステル) |
どちらも、めんの原材料の「/」より後ろに書かれていました。
東洋水産では518品中2品だけ
東洋水産の公式サイトに載っている家庭用の全518品の原材料名を確かめたところ、アルギン酸エステルを使っていたのは上のチルドのそば2品だけでした。
カップ麺や袋麺、冷凍食品には1品も使われていません。「加工食品に幅広く入っている」というイメージほど多くはないのが実情です。


ビールには日本では使えない
海外では、アルギン酸エステルはビールの泡を長持ちさせる目的で広く使われています。EFSAの資料でも、表示に書かれた商品の約3割がビールでした。
ただし日本では、酒税法の決まりでビールには使えません。国内のビールに入っている心配はないと言えます。
日本のビールには入っていないんですね。
酒税法の決まりで使えません。海外のビールとはちがうところです。
表示の書かれ方
アルギン酸エステルは、使う目的によって「増粘剤」「安定剤」「糊料」などの用途名と一緒に書かれます。
名前は消費者庁の簡略名の一覧にあるとおり「アルギン酸エステル」と略されるのが一般的です。原材料表示の「/」より後ろを探すと見つけられます。
「/」の後ろを探せば見つかるんですね。
増粘剤や安定剤などの用途名と一緒に書かれていることが多いですよ。
アルギン酸エステルのよくある質問


ここまでの内容をふまえて、アルギン酸エステルについて多い疑問にまとめて答えます。
いずれも公的機関の評価と、メーカーの資料にもとづいた回答です。
気になる質問だけ拾い読みしてください。
アルギン酸エステルに発がん性はありますか
EFSAの2018年の再評価では、アルギン酸エステルにも、分解してできるアルギン酸とPGにも、発がん性の懸念はないとされています。
遺伝子を傷つける性質についても、懸念を示すデータはありませんでした。
アルギン酸エステルを毎日食べても大丈夫ですか
大丈夫です。日本人の平均は1日約4mgと推計され、許容量(体重50kgで3,500mg)の約800分の1です。
使用基準の上限いっぱいの食品を毎日350g食べ続けて、ようやく届く量です。
子どもが食べても平気ですか
EFSAの推計では、よく食べる幼児でも摂取量は許容量を下回っていました。
欧州の推計は使用基準の上限いっぱいに使ったと仮定した計算なので、実際の量はさらに少ないと考えられます。
アルギン酸エステルとプロピレングリコールは同じものですか
別の添加物です。アルギン酸エステルは粉末で、プロピレングリコールは透明な液体です。
プロピレングリコールは生めんの保湿などに単独でも使われ、生めんでは2.0%以下という別の使用基準があります。
アルギン酸エステルとアルギン酸ナトリウムのちがいは何ですか
どちらも海藻のアルギン酸から作りますが、アルギン酸エステルはPGを結合させたものです。
PGの部分があるため、アルギン酸ナトリウムとちがって許容量と使用基準が決められています。
アルギン酸エステルを避けるにはどうすればいいですか
原材料表示の「/」より後ろで「アルギン酸エステル」の文字を探します。チルドのそばやパンで見つかりました。
ただし平均の摂取量は1日約4mgとわずかで、避けても体への影響はほとんど変わりません。
アルギン酸エステルは体に悪いかのまとめ


アルギン酸エステルが体に悪いのかを、公的機関の評価と国内の使用量で確かめてきました。
答えは「許容量は決まっているが、実際にとっている量はその約800分の1」です。
- 原料は昆布などの海藻のアルギン酸
- プロピレングリコールを結合させたもの
- 許容量があるのはPGの部分のため
- 日本人の平均は1日約4mg
- 欧州の再評価でも発がん性の懸念なし
- 東洋水産では518品中2品だけ
アルギン酸エステルを避けても、減らせるのは1日約4mgだけというのが、今回いちばんの発見でした。
名前は怖そうでしたけど、量で見ると気にしなくていいんですね。
そうです。チルドのそばやパンを、表示を理由に避ける必要はありません。
次にそばやパンの裏面で「アルギン酸エステル」を見かけたら、海藻からできた成分で、とっている量は許容量の約800分の1だと思い出してみてください。
成分ラボでは身近な食品を、メーカーの公式表示と国の資料をつき合わせて1つずつ調べています。
ほかの海藻や木からとれる添加物、色素の安全性を、許容量の数字で確かめた記事もあわせてどうぞ。




本記事の商品の原材料は、メーカーの公式サイトに掲載された表示を2026年10月5日に確認したものです。商品のリニューアルで変わることがあるため、購入時はお手元の商品の表示もあわせてご覧ください。
国内の摂取量は、メーカー資料の国内使用量(年間200トン前後)を人口で割った推計で、個人の食生活によって変わります。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療に代わるものではありません。





