パンやアイス、チョコレート、マーガリンなど、原材料の欄でよく見かける「乳化剤」。水と油をなじませるために使われる食品添加物です。
一方で、「乳化剤は腸に悪いらしい」「化学的に作られたものだから避けたほうがいい」という話を耳にして、乳化剤の入っていない食品を選ぼうか迷っている方もいるかもしれません。
- 体に悪いのか、はっきり知りたい
- 「乳化剤」としか書かれず中身が分からない
- 腸内細菌に悪いという話が気になる
- 乳化剤なしの食品に替えるべきか迷う
そこで、国の評価と国際機関の評価、メーカーの公式表示をつき合わせて、乳化剤の中身と1日の許容量を調べています。さらに、同じ雪印メグミルクの「ネオソフト」(乳化剤あり)と「雪印北海道バター」(乳化剤なし)を10gで並べました。
結果、乳化剤を避けてバターにすると、飽和脂肪酸は約2.2倍になることが分かりました。
乳化剤を避けたのに、別のものが増えちゃうんですね……。
避ける前に、何と何を比べているのかを見るのが大事なんです。順番に確かめていきましょう。
- 「乳化剤」という表示の中身
- 種類ごとの1日の許容量
- 乳化剤ありのネオソフトと、なしのバターの比較
- 飽和脂肪酸は1日の目標量の何割か
使う数字は、メーカーの公式表示と国・国際機関の資料に限りました。まずは、なぜ体に悪いと言われるのかから見ていきます。
乳化剤が体に悪いと言われる理由


乳化剤は、水と油のように本来は混ざらないものを、なめらかになじませるための添加物です。パンやアイス、チョコレート、マーガリン、ドレッシングなど、身近な食品に広く使われています。
「体に悪い」と言われる理由をたどると、3つに分かれました。化学的な名前、腸内細菌の話、そして表示から中身が分からないことです。
どれも、なんとなく不安になる理由ですね。
1つずつ、国や国際機関の資料で確かめていきましょう。
化学的に作られるものがある
乳化剤には、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセライドなど)やポリソルベートのように、化学的に作られるものがあります。名前が長くて、それだけで不安に感じる方も多いようです。
一方で、大豆や卵黄から取るレシチンも、同じ「乳化剤」として使われています。2章で中身を分けて見ていきます。
大豆から取るものもあるんですか。
そうなんです。「乳化剤」といっても、中身はいろいろあるんですよ。
腸内細菌への影響の話
2015年に、マウスの飲み水に乳化剤のポリソルベート80などを混ぜた実験で、腸内細菌への影響が報告されました。乳化剤が腸に悪いという話は、ここから広まっています。
ただし、人がふだんの食事で同じことが起きるかは、まだ分かっていません。国はポリソルベートに1日の許容量を決めていて、その量は3章で確かめます。
マウスの実験の話だったんですね。
そうなんです。動物の実験と、人の食事の量は分けて考えましょう。
表示を見ても中身が分からない
原材料の欄には、多くの場合「乳化剤」の3文字しか書かれていません。何が使われているのか分からないことが、不安につながっています。
これは法律で認められた「一括名」という書き方のためです。くわしくは2章で説明します。
分からないから、こわく感じるのかもしれません。
ルールを知ると、表示の読み方が変わりますよ。
乳化剤とは?表示は何種類かのまとめ書き


乳化剤は、食品表示のルールで「一括名」での表示が認められている添加物です。大阪府の食品添加物の表示の解説でも、一括名で書ける14の用途の1つに挙げられています。同じく一括名で書けるものには、パンに使われるイーストフードなどもあります。
結果、「乳化剤」と書かれていても、化学的に作るものと、大豆や卵から取るものの、どちらの場合もあることが分かりました。


表示だけでは、どれなのか見分けられないんですね。
そうなんです。だからこそ、まとめて「危ない」とも「安全」とも言えないんですよ。
水と油をなじませる働き
乳化剤は、水になじむ部分と、油になじむ部分の両方を持っています。そのため、水と油の境目に入りこんで、分かれにくくします。
マーガリンやアイスがなめらかなのも、パンがしっとりするのも、乳化剤の働きによるところがあるのです。
なめらかさのために入っているんですね。
そのとおりです。見た目や食感をそろえる役目が大きいんですよ。
指定添加物とレシチンの2つ
| 分類 | 主なもの | どうやって作るか |
|---|---|---|
| 指定添加物 | グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリソルベート | 油脂や砂糖などから化学的に作る |
| 既存添加物 | 植物レシチン、卵黄レシチン、酵素処理レシチン | 大豆や卵黄などから取り出す |
どちらを使っても、表示は「乳化剤」の一言でかまいません。大豆由来のレシチンを使った場合は、アレルギー表示で「大豆を含む」と書かれることが多いです。
原料の中の乳化剤は書かれないことも
パンに使うマーガリンなど、原料の中に入っている乳化剤は、条件を満たせば表示を省くことができます。これを「キャリーオーバー」と呼びます。
つまり、原材料の欄に「乳化剤」がなくても、まったく入っていないとは限りません。マーガリン入りのパンの原材料は、ロイヤルブレッドの記事でもくわしく見ています。
書いていないから入っていない、とは言えないんですね。
そうなんです。避けきるのは、思ったよりむずかしいんですよ。
1日の許容量は種類ごとにちがう


次に、乳化剤の種類ごとに、1日に一生食べ続けても健康への悪い影響がないとされる量(ADI)を並べました。国際的な評価はJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)が行っています。
結果、「上限を決める必要なし」とされたのはレシチンとグリセリン脂肪酸エステルなど一部で、ほかには上限がありました。


ほとんど上限がない、と書いてあるサイトも見たことがあります。
上限がないのは一部だけなんです。表で確かめましょう。
上限なしはレシチンなど一部
| 種類 | 1日の許容量(体重1kgあたり) | 評価 |
|---|---|---|
| レシチン | 上限を決める必要なし | JECFA |
| グリセリン脂肪酸エステル | 上限を決める必要なし | JECFA |
| ショ糖脂肪酸エステル | 30mgまで | JECFA |
| ソルビタン脂肪酸エステル | 25mgまで | JECFA |
| ステアロイル乳酸カルシウム | 20mgまで | JECFA |
| ポリソルベート | 10mgまで | 食品安全委員会 |
レシチンは大豆や卵黄にもともとある成分で、グリセリン脂肪酸エステルは油を消化するときに体の中でもできる成分に近いものです。この2つは、上限を決める必要がないとされています。それ以外の乳化剤には、はっきりした上限があります。
ポリソルベートは日本のほうが厳しい
ポリソルベートは、JECFAでは体重1kgあたり25mgまで。一方、日本の食品安全委員会は、ラットの試験で見られた下痢をもとに体重1kgあたり10mgとしています。
日本は国際的な値より、ポリソルベートの許容量を厳しく決めているのです。腸への影響が気になる方が知っておきたい点です。
日本のほうが、慎重に決めているんですね。
そうなんです。気になる成分ほど、国の評価を確かめる価値がありますよ。
体重50kgならどのくらいか
体重50kgの人に当てはめると、ポリソルベートは1日500mgまで、ステアロイル乳酸カルシウムは1日1,000mgまでです。
乳化剤は、なめらかさを出すために少しだけ使う添加物です。同じように少量で使われる添加物の量の考え方は、カゼインNaの記事でも確かめています。
数字で見ると、イメージより落ち着いて考えられますね。
そのとおりです。こわさは、量と一緒に考えましょう。
乳化剤を避けてバターにすると飽和脂肪酸2.2倍


ここからは、乳化剤を避けたときに何が変わるかを確かめます。比べたのは、同じ雪印メグミルクのネオソフトと雪印北海道バターです。
結果、乳化剤なしのバターは、10gあたりの飽和脂肪酸がネオソフトの約2.2倍でした。


乳化剤を避けると、そんなに変わるんですね。
添加物は減っても、中身の油が変わるんです。表で見てみましょう。
10gで比べると
| 10gあたり | 熱量 | 脂質 | 飽和脂肪酸 | 乳化剤 |
|---|---|---|---|---|
| ネオソフト | 60kcal | 6.6g | 2.3g | あり |
| 雪印北海道バター | 73kcal | 8.1g | 5.1g | なし |
飽和脂肪酸は2.3gと5.1gで、バターは約2.2倍です。熱量と脂質も、バターのほうが約1.2倍多くなります。
バターは生乳と食塩だけ
雪印北海道バターの原材料は、「生乳(北海道産)、食塩」の2つだけです。添加物は使われていません。
一方、ネオソフトは植物油脂が中心で、「/」のうしろに乳化剤、香料、着色料が書かれています。添加物の数だけで見れば、バターのほうが少ないのです。
添加物が少ないのは、バターのほうなんですね。
そうなんです。ただ、油の種類まで見ると話が変わるんですよ。
植物油と乳脂肪のちがい
バターの脂は牛乳の脂肪で、飽和脂肪酸が多いのが特徴です。ネオソフトは植物油脂が中心なので、飽和脂肪酸が少なくなります。
つまり、乳化剤を避けた結果、飽和脂肪酸の多い油を選ぶことになるのです。バターに替えたときの変化は、ヌテラの記事でも確かめています。
乳化剤だけを見ていると、油のちがいには気づきませんね。
そのとおりです。避けるときは、何に替わるのかまで見ましょう。
飽和脂肪酸は1日の目標量の何割か


最後に、飽和脂肪酸が多いかどうかを確かめます。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、18歳以上の飽和脂肪酸の目標量は総エネルギーの7%以下です。1日2,000kcalなら約15.6gまでになります。
結果、バター10gで1日の目標量の約3分の1、ネオソフト10gなら約15%でした。


バター10gで3分の1は、けっこう多いですね。
そうなんです。乳化剤の許容量より、こちらのほうが毎日の食事に近い数字ですよ。
目標量は総エネルギーの7%以下
| 飽和脂肪酸 | 1日の目標量に対する割合 | |
|---|---|---|
| ネオソフト 10g | 2.3g | 約15% |
| 雪印北海道バター 10g | 5.1g | 約3分の1 |
| 1日の目標量(2,000kcalの場合) | 約15.6gまで | — |
飽和脂肪酸をとりすぎると、血液中のLDLコレステロールが増えやすいとされています。目標量は「これ以下に抑えたい量」として決められています。
日本人の平均はすでに8.3%
農林水産省のまとめによると、20歳以上の日本人の飽和脂肪酸の平均摂取量は、総エネルギーの8.3%でした(令和5年国民健康・栄養調査)。
平均ですでに目標の7%を超えています。ここにバターを足すと、さらに目標から離れることになります。
もともと多めにとっているんですね。
そうなんです。だから、どの油に替えるかが大事なんですよ。
量を決めて使えば選び分けられる
バターがいけないわけではありません。食パン2枚に10gずつぬると、飽和脂肪酸は1日の目標量の約3分の2になる、と知っておくことが大切です。
バターの風味を楽しみたい日は量を控えめに、ふだんはネオソフトのようなファットスプレッドを使うなど、量と回数で選び分けるのが現実的です。
どちらかに決めなくてもいいんですね。
そのとおりです。数字が分かれば、自分で選べますよ。
乳化剤のよくある質問


ここまでの内容をふまえて、乳化剤について多い疑問にまとめて答えます。
気になる質問だけ拾い読みしてください。
乳化剤は体に悪いですか
国が使用を認めた添加物で、種類ごとに1日の許容量が決められています。レシチンとグリセリン脂肪酸エステルは上限を決める必要なし、ポリソルベートは体重1kgあたり10mgまで(食品安全委員会)です。
乳化剤に発がん性はありますか
JECFAや食品安全委員会は、動物の試験の結果をもとに1日の許容量を決めています。ポリソルベートの許容量の根拠になったのは、発がん性ではなく、ラットで見られた下痢でした。決められた量の範囲で使われている限り、心配しすぎる必要はありません。
乳化剤は腸内細菌に悪いのですか
2015年にマウスで腸内細菌への影響が報告されましたが、人がふだんの食事で同じことが起きるかはまだ分かっていません。日本はポリソルベートの許容量を国際的な値より厳しく決めています。
大豆アレルギーでも食べられますか
大豆由来のレシチンを使った食品は、アレルギー表示で「大豆を含む」と書かれることが多いです。大豆アレルギーのある方は、アレルギー表示を必ず確かめ、医師の指示にしたがってください。
乳化剤なしのアイスはありますか
あります。たとえばハーゲンダッツのバニラは、原材料が「クリーム、脱脂濃縮乳、砂糖、卵黄/バニラ香料」で乳化剤は使われていません。ただし110mlで244kcal、脂質16.3gと、クリームと卵黄が多いぶん脂質は多めです。
乳化剤を避けたいときはどうすればいいですか
原材料の「/」のうしろに「乳化剤」があるかを見ます。ただし原料の中の乳化剤は書かれないこともあるため、完全に避けるのはむずかしいです。避けるときは、替わりの食品の脂質や飽和脂肪酸も確かめましょう。
乳化剤は体に悪いかのまとめ


乳化剤は体に悪いのかを、国と国際機関の評価、メーカーの公式表示で確かめてきました。
答えは「乳化剤は種類ごとに1日の許容量が決められた添加物。避けてバターにすると、飽和脂肪酸は約2.2倍になる」です。
- 「乳化剤」は何種類かをまとめた書き方
- 大豆や卵黄のレシチンも乳化剤
- 上限なしはレシチンなど一部だけ
- ポリソルベートは体重1kgあたり10mgまで
- バター10gの飽和脂肪酸はネオソフトの約2.2倍
- バター10gで飽和脂肪酸の1日の目標量の約3分の1
乳化剤を避けてバターにすると、飽和脂肪酸は約2.2倍というのが、今回いちばんの発見でした。
添加物だけ見て選ぶと、別のところで損をすることもあるんですね。
そのとおりです。避けるなら、何に替わるのかまで数字で見る。これがいちばん大事なポイントですよ。
次にパンにぬるものを選ぶときは、原材料と一緒に、栄養成分表示の飽和脂肪酸も見てみてください。
乳化剤を使わないアイスでは、スーパーカップの記事もあります。超バニラの原材料には乳化剤や安定剤の表示がなく、添加物は香料と色素の2つでした。








同じネオソフトのトランス脂肪酸では、ネオソフトの記事もどうぞ。10gで0.05gと、バターの約4分の1でした。
乳化剤と同じく一括名で書ける添加物は、pH調整剤の記事でも調べています。pH調整剤は、クエン酸・乳酸・重曹など35種類以上をまとめて書ける名前でした。
とろみや安定のために使われる添加物では、加工デンプンの危険性の記事もあわせてどうぞ。EUでは、乳幼児向け食品での加工デンプンは5%以下の濃度で使うべきとされています。
成分ラボでは身近な食品と添加物を、メーカーの表示と国の資料をつき合わせて1つずつ調べています。ほかの添加物やパンの記事も、あわせてどうぞ。






本記事の1日の許容量は、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)の評価と、食品安全委員会「ポリソルベート類」の評価書によります。一括名の範囲は大阪府「食品添加物の表示」を参照しました。ネオソフトと雪印北海道バターの原材料と栄養成分は雪印メグミルク公式の表示で(2026年10月15日確認)、バターは100gあたりの値を10gに換算しました。飽和脂肪酸の目標量は厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」、平均摂取量は農林水産省「脂質のとりすぎに注意」によります。商品の中身は変わることがあるため、購入時はパッケージの表示を確かめてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療に代わるものではありません。アレルギーのある方や治療中の方は、医師の指示を優先してください。







