ハムやベーコン、スモークチーズなどの燻製の香りがする食品。原材料を見ると、「くん液」と書かれていることがあります。
一方で、「くん液はEUで禁止された」「発がん性があるらしい」という話を耳にして、食べ続けてよいのか迷っている方もいるかもしれません。
- くん液とは何か知りたい
- EUで禁止されたのは本当か気になる
- 日本ではどうなっているのか知りたい
- 気になるときの確かめ方を知りたい
そこで、日本の既存添加物名簿と、食品安全委員会、欧州食品安全機関(EFSA)、EUの規則をつき合わせて調べています。
結果、EUは遺伝毒性の懸念から8種類の燻製香料の認可を更新せず、段階的に使えなくなることが分かりました。日本では、くん液は既存添加物名簿に載っている添加物です。
EUで使えなくなると聞くと、日本の食品も心配になります……。
EUで何が決まったのか、日本ではどうなっているのかを、順番に確かめていきましょう。
- くん液とは何か(作り方と名前)
- EUで決まったことと、その理由
- 段階的に使えなくなる期間
- 日本で気になるときの確かめ方
使う情報は、国と国際機関・EUの公的な資料に限りました。まずは、危ないと言われる理由から見ていきます。
くん液が危ないと言われる理由


くん液が「体に悪い」「危ない」と言われるのはなぜでしょうか。
理由をたどると、3つに分かれました。EUで使えなくなるというニュース、名前から中身が分かりにくいこと、そして「煙」から作られることです。
どれも、なんとなく気になっていたことです。
1つずつ、公的な資料で確かめていきますね。
EUで使えなくなるというニュース
2024年、EUは8種類の燻製香料(スモークフレーバー)の認可を更新しないことを決めました。
このニュースが「くん液は危険」という形で広まりました。何が決まったのかは、3章と4章でくわしく見ます。
ニュースの見出しだけ見て、不安になっていました。
中身を知ると、どこが心配な点なのかが見えてきますよ。
名前から中身が分かりにくい
「くん液」という名前だけでは、何から作られたものなのか想像しにくいかもしれません。
分からないものほど、こわく感じやすいものです。2章で、国の名簿にある定義を見てみます。
液体の調味料のようにも聞こえます。
実は、作り方がはっきり決まっている添加物なんですよ。
「煙」から作られる
くん液は、木材などを燃やしたときの煙の成分から作られます。煙と聞くと、体によくないイメージを持つ方もいるはずです。
EUの評価でも、煙の成分にふくまれる物質が問題になりました。3章で、評価の中身を見ます。
煙と聞くと、たしかに少しこわいです。
どんな点が心配されたのかを、正しく知っておきましょう。
くん液は煙の成分を集めた既存添加物


日本の既存添加物名簿では、くん液を「サトウキビ、竹材、トウモロコシ又は木材を燃焼して発生したガス成分を捕集し、又は乾溜して得られたもの」と定めています。
用途は「製造用剤」、別名は「スモークフレーバー」です。燻製のような香りをつけるために使われてきました。


煙の成分を、液体として集めたものなんですね。
そうなんです。昔ながらの燻製の香りを、手軽につけるためのものですよ。
原料と作り方
原料は、サトウキビ・竹材・トウモロコシ・木材です。これらを燃やして出たガスを集めるか、乾留(空気を減らして蒸し焼きにする方法)して作ります。
名簿には、くん液のなかまとして木酢液やリキッドスモークも並んでいます。
竹やトウモロコシからも作れるんですね。
そうなんです。原料はいくつかあるんですよ。
日本では既存添加物
既存添加物は、長く使われてきた実績があり、国が使用を認めて名簿に載せた添加物です。くん液は、2020年版の名簿に載っています。
名簿の「くん液」は、製造用剤として分類されています。添加物の分け方については、pH調整剤の記事でも紹介しました。
日本では、名簿に載っている添加物なんですね。
そのとおりです。EUとのちがいは、5章でまとめますよ。
EUは遺伝毒性の懸念で8種類の認可を更新しない


では、EUでは何が決まったのでしょうか。EFSA(欧州食品安全機関)の解説と、食品安全委員会の食品安全関係情報で確かめました。
結果、EFSAは評価した8種類の燻製香料すべてについて、遺伝毒性の懸念を否定できないとしていました。これを受けて、EUは8種類の認可を更新しないことを決めています。


8種類すべてで、懸念が否定できなかったんですね。
そうなんです。最新の評価の方法で見直した結果ですよ。
遺伝毒性とは
EFSAのQ&Aによると、遺伝毒性とは細胞の遺伝情報を傷つける性質のことです。遺伝情報の変化は、がんなどのリスクを高めるおそれがあります。
EFSAは、こうした性質については「安全な量を決めることができない」と説明しています。
安全な量が決められない、というのは重いですね。
そうですね。だからEUは、使わない方向に決めたんですよ。
評価の方法が新しくなった
EFSAは2009〜2012年にも評価していて、そのときは使える量をしぼったうえで認可されていました。
2021年に新しい評価の考え方ができ、混ざり物の中に遺伝毒性のある成分が1つでもあれば、全体を遺伝毒性ありとみなすことになりました。2023年の評価は、この考え方で行われています。
評価のしかたが厳しくなったんですね。
そうなんです。新しいデータと新しい方法で見直されたんですよ。
EUでは使い方によって2年または5年で使えなくなる


EUの決定には、段階的に使えなくなる期間(段階的廃止期間)が決められています。食品安全委員会の資料によると、使い方によって期間がちがいます。
結果、燻製の代わりに使うハム・魚・チーズなどは5年、風味をつける用途のスープ・ポテトチップス・ソースなどは2年でした。


使い方で、期間がちがうんですね。
そうなんです。燻製の代わりに使う食品は、作り方を変えるのに時間がかかるからですよ。
燻製の代わりに使う食品は5年
EUの規則(2024/2067)では、肉・チーズ・魚の加工品などは2029年7月1日まで市場に出せるとされています。
規則の中でも、燻製香料が昔ながらの燻製の代わりに使われていて、作り方を変えるには大きな投資が必要な場合があることが理由に挙げられています。
急に変えるのは、作る側も大変なんですね。
そうですね。だから猶予の期間を長くとっているんですよ。
風味づけに使う食品は2年
スープやポテトチップス、ソースなど、風味をつけたり強めたりするために使う食品は、2026年7月1日まで市場に出せるとされています。
どちらも、期限までに市場に出したものは、賞味期限や消費期限までは売り続けられるという決まりです。
期限のあとも、すぐにお店から消えるわけではないんですね。
そのとおりです。少しずつ切り替わっていく決まりなんですよ。
対象は香料で、燻製した食品そのものではない
食品安全委員会の資料では、この決定は食品に加える特定の香料についてのもので、食品そのものについてのものではないとされています。
つまり、昔ながらの方法で燻製したハムや魚が、この決定でEUで禁止されたわけではありません。
燻製の食品が全部だめになったわけではないんですね。
そうなんです。そこを取りちがえないようにしましょう。
日本でくん液が気になるときの確かめ方


EUの決定は、EUの中の決まりです。日本では、くん液は既存添加物名簿に載っている添加物として扱われています。
それでも気になる方は、原材料表示を確かめ、分からなければメーカーに聞くのが確実です。


日本とEUで、決まりがちがうんですね。
そうなんです。ちがいを知ったうえで、自分で選べばいいんですよ。
原材料表示を確かめる
食品の原材料表示は、「/」より前が原材料、後ろが添加物です。添加物として使われていれば、「/」より後ろに書かれます。
どの商品にくん液が使われているかは、商品ごとに表示を見るのが確実です。分からないときは、メーカーのお客様相談室に問い合わせましょう。
表示の「/」の後ろを見ればいいんですね。
そのとおりです。気になる添加物は、表示で確かめるくせをつけましょう。
食事全体のバランスで考える
EFSAのQ&Aでは、燻製香料で風味づけした食品を食べたときに害が起こる確率までは調べていないとし、肉・魚・野菜などいろいろな食品をバランスよく食べると、有害な物質をとる量を減らしやすいと説明しています。
ハムやベーコンなどの加工肉は、加工肉の記事で塩分が多いことも紹介しています。食べる量を決めて、ほかの食品と組み合わせるのが現実的です。
1つの食品にかたよらないのが大切なんですね。
そうなんです。いろいろな食品を組み合わせるのが、いちばんの対策ですよ。
くん液のよくある質問


ここまでの内容をふまえて、くん液について多い疑問にまとめて答えます。
気になる質問だけ拾い読みしてください。
くん液とは何ですか
サトウキビ・竹材・トウモロコシ・木材を燃やして出たガスを集めたり、乾留したりして作る添加物です。日本の既存添加物名簿では製造用剤とされ、別名はスモークフレーバーです。
くん液はEUで禁止されたのですか
EUは2024年、8種類の燻製香料の認可を更新しないことを決めました。段階的廃止期間のあと、EUでは使えなくなります。燻製の代わりに使う食品は5年、風味づけに使う食品は2年の期間があります。
なぜEUで使えなくなるのですか
EFSAが、評価した8種類すべてについて遺伝毒性の懸念を否定できないと結論したためです。遺伝毒性については、安全な量を決めることができないとされています。
日本では使えますか
日本では、くん液は既存添加物名簿(2020年版)に載っている添加物です。EUの決定は、EUの中の決まりです。
燻製した食品も危ないのですか
EUの決定は食品に加える特定の燻製香料についてのもので、食品そのものについてのものではないとされています。昔ながらの方法で燻製した食品が、この決定で禁止されたわけではありません。
くん液を避けたいときはどうすればいいですか
原材料表示の「/」より後ろを見て確かめましょう。分からないときは、メーカーのお客様相談室に問い合わせるのが確実です。
くん液とはのまとめ


くん液とは何か、EUで何が決まったのかを、日本の名簿と公的な資料で確かめてきました。
答えは「くん液は煙の成分を集めた既存添加物。EUはEFSAの評価を受けて、遺伝毒性の懸念から8種類の燻製香料の認可を更新せず、段階的に使えなくなる。日本では名簿に載っている添加物なので、気になる方は表示で確かめる」です。
- くん液は煙の成分を集めた既存添加物
- EFSAは8種類すべてで遺伝毒性の懸念を否定できず
- EUは2024年に認可を更新しないと決めた
- 燻製の代わりは5年、風味づけは2年で終了
- 対象は香料で、燻製した食品そのものではない
- 気になるときは表示とメーカーで確かめる
EUは遺伝毒性の懸念から8種類の燻製香料の認可を更新せず、段階的に使えなくなるというのが、今回いちばん大事な点でした。
EUで何が決まったのか、やっと分かりました。
そのとおりです。ニュースの見出しより、何が・いつ・どう決まったのかを見る。これがいちばん大きなポイントですよ。
次に燻製の香りがする食品を買うときは、原材料表示の「/」の後ろを確かめてみてください。
ほかの添加物では、ピロ亜硫酸ナトリウムの記事で1日に摂ってよい量を調べています。JECFAのADIは、体重50kgの人なら1日35mg(二酸化硫黄として)です。


成分ラボでは身近な食品と添加物を、公的な資料をつき合わせて1つずつ調べています。ほかの記事も、あわせてどうぞ。






本記事のくん液の定義は既存添加物名簿(日本食品化学研究振興財団・2020年版)、EUの決定と段階的廃止期間は食品安全委員会「食品安全関係情報」(欧州委員会の公表の要約)とEU実施規則2024/2067、遺伝毒性の評価と説明はEFSAの解説とQ&Aによります(2026年10月21日確認)。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療に代わるものではありません。食事制限をしている方は、医師や管理栄養士の指示を優先してください。







